1
二人は沈黙のまま、ただ時間だけを浪費していく。
Realは頭の中で何度も何度も昨日会ったばかりの「彼女」の顔を思いだしていた。その度に「過去のあの人」の笑顔と被る。
ーーー忘れたフリはしてたんだけど…なぁ。
心の中でそんなことを思っては苦虫を押し潰すように奥歯を噛みしめる。
「失礼します。」
不意に部屋に人が入って来た。
「ツーさん。コレをお返しします。」
「あぁ…ありがとう。」
「…それでは、私はこれで。」
簡潔に用件を済ますと彼はそそくさと部屋を後にした。
「リーダーからお前に渡すようにと頼まれていたものだ。俺も無事に帰る保証はなかったからな。信頼出来る部下に渡しておいた。」
手渡されたものは手紙だった。
封を開き手紙を読む。
*** *** ***
この手紙を読んでいると言うことは「結果」はどうあれ、キミは生きていることね。
来たばかりのキミに無理を頼んだ事。まず謝罪します。
ごめんなさい。
チームのことはツーに一任してあります。
今後の流れは彼に従って下さい。キミはツーとは馬が合わないようだけど、なるべく他の人を助けれるようにしてもらえると嬉しいです。
ここからは、キミにしかお願い出来ないこと。
もしも私が此処を出れず、何らかの形でチームにも戻れなかった場合。
自分で自分を強制終了出来なくなった場合。最悪、もう生きていなかった場合。
出来ればキミの判断で私に「結論」を出して下さい。
きっと、キミなら私の望むカタチにしてくれる。そんな気がするのでお願いします。いつかこの手紙が笑い話になって外でまた出会えることを願っています。
最後に。
あなたは、生きて下さい。
チームノーネームリーダー 榊 渚
*** *** ***
グシャッ。
Realは手紙を握りしめた。俯いているのその表情は見て取ることは出来ない。
しばらくの沈黙がまた続いた。ツーはゆっくりとRealが言葉を発するのを待った。
「ねぇ…。ここのことに関して一番詳しい人って誰?」
俯いたままRealは、そうツーに問い掛ける。
「…このチームならギーだろう。」
「ギーは駄目。出来ればそれ以外。このチームじゃなくてもいいから。」
「…西のブロックにギーとつるんでいた男がいる。自ら「電王」と名乗っている、電波系のイカレタヤツだが…。」
「場所…詳しく教えてくれる?」
「連れて行こう。」
「それも駄目。アンタにはココを束ねなきゃな仕事があるっしょ?…嫌な仕事頼んじゃうけどりっちゃんのこと…皆に教えたげて。」
「…わかった。俺の部屋で地図を見せよう。」
---------------------------------------------------
隔離区域の西の果て。
車の運転って案外簡単なんだな。
ツーに教えて貰った運転の仕方ですんなり此処まで来れた。
立ち並ぶ雑居ビルの一棟。
「ここか。」
中に入った途端に声が聞こえる。
「ノーネームのリーダー死亡。仇討ちに情報を仕入れに来たか?ルーキー「ID070814」。」
電子音声。
なるほど。電王ね。
Realはツーに教えられた一室を目指した。
2
ツーから聞いたのはここの25階がまるまる電王の「王国」とのことだった。
目指すRealに話しかける電子音。
「エレベータは節電のために切ってあるから階段できなよ。」
「一応トラップ張ってあるから、ナビゲートするけど、逆らったら命の保証ナッシング。ヒャハ!」
不意に足を停めるReal。
「その誘導がトラップへの誘導って可能性は?」
「ヒャハッ!用心深いね。「ID070814」。アンタが俺に危害を加える相手ならそうするかもね。俺が把握してる情報では、それが目的って認識はしてねぇけど?」
「一応会話も成立するシステムってわけね。」
「ヒャハッ!いいよアンタ。なかなか賢いじゃん。楽しみに待ってからはやく上がってきなよ。」
音声誘導に導かれるまま上を目指す。そして25階に到着したところ。
「はい。ゴール!よく出来ました。」
そこは床一面に配線が敷き詰められたフロア。
奥のベットにうつぶせになりながら周りに隙間なく置かれた端末を操作する独りの男。
「なるほど…確かに電王だわ。そっち行っていいの?配線踏まないで行く自信ないんですけど。」
「フェミニストじゃん。「ID070814」!ヒャハッ!いいよ。俺が今からそっち行くから。」
ギスギスで貧弱な身体にだらしなく着崩したジーンズとロングTシャツ。…背は160後半といったところ。顔は青白く、モニターの光に照らされより一層病的に見える。ゴーグルのような眼鏡をかけたその男は配線を器用に除けて、ヒョコヒョコとこっちまで歩いてきた。
「ハジメマシテ。「ID070814」さん。なんて呼べばいい?Real?それとも本名?」
「へー。そこまでわかってんだ。」
「ヒャハッ!そんなん余裕だよ。ここの電力だって「アイツラ」んとこハックして端末の回線いじっくって引っ張ってんの!もう半年以上このまんまだけど、一向に気付きゃしないのな。アイツラ!まぁ、地下までカメラ付けなかったのが全てのミスの始まりってな。ヒャハッ!」
「…オタクの近親者はきっとサイバーテロ系でとんでもないことしでかしたんだろうね。」
「ヒャハッ!アンタまだここに来てから4日目ってのにそこまで辿りついてんのか!イカスじゃん!すげーよ。」
「ふーん…俺がここまで辿り着いてるの知らないって事は、オタクも地下までは情報とれてないのね。」
Realがこの考察を口にしたのはメトロの配電室。つまりは地下だ。
その言葉に一瞬「電王」が不快な顔をする。
「「ID070814」さんよぉー。あんま俺の機嫌損ねない方がよくなくない?アンタの知りたい情報握ってんのは俺だけなんだかんな。」
「ギーだってオタクと変わんないくらいの情報仕入れること出来るっしょ?」
「あいつが此処まで機材揃えるの不可能なんじゃね?なかなか話せるヤツだけど肝心なとこでびびりやがって…使えないんだよ!」
電王のギーに対する不快感。なんとなくギーがこいつと別れた理由がわかるような気がした。
「ふーん…きっとアンタの無茶な考えに着いていけなかったんじゃない?」
「…テメー…どこまで知ってんだよ。ギーに何聞いてきやがった?テメーだけが何でも知ってるなんて思ってんじゃねぇだろうなぁ?「ID070814」。いや、天宮和彦さんよぉー。」
その言葉に今度はRealが反応を見せた。いつも通りのポーカーフェイス。口元には笑みを浮かべてるが、目は淀んだ深海のようにどす黒く、電王を見つめる。
「…ギーからは何も聞いてないよ。初日以来会ってもないしね…。てか、その名前で何がわかったよ?俺が「私生児」ってこと以外になんか掴んだの?だったら教えてよ。俺が知りたいくらいだからさ。」
Realの深い視線の先に殺意を感じ、電王は総毛立った。
「いや。なんも聞いてないならいいよ。悪かったよ。ここじゃ本名はタブーだもんな。ヒャハッ!本題に入ろうぜ?アンタ、なんか知りたいだろ?言ってみなよ。レッドキャップスのヘッドの名前?アイツの性癖?何でも知ってるぜ?」
Realに対する恐怖を振り払うように電王はそう話題をすり替える。
ーーーまぁ…いいか。
頭を掻きながらRealはそんなことを投げやりに結論を出す。そう結論を出した時にはいつものRealに戻っていた。
「レッドキャップスの本拠地と構成人数。出来れば人員の配置まで知りたい。」
「そんなんよゆーだよ。」
そういうと電王はRealから逃げるように、モニターの方へ歩いていった。
 |