月の詩
十七歳隔離区域
第十ニ章  「隷属」
1

「その入り口の左にあるモニターに映すから見てな。」
逃げるように端末の前に来た電王はそうRealに話しかける。
モニターには隔離区域の衛星写真のような映像が映される。

「今、アップにするけど、ここが西の端にある区画で言うとD-10区画。」
そう言うと衛生写真にマス目がひかれ横軸に1〜10。縦軸にA〜Jの割り振りがなされる。

「レッドキャップスはB-4地区にホームがある。構成員は確定じゃないけど俺が確認しているだけで20人ちょっとってとこかな。」
電王は得意分野の会話が出来たことからか、自分を取り戻し饒舌に語りだした。

「…ホームの場所…もっとアップで見れないの?」
「もちろん出来るさ。待ってな。」
そう言うと画面がB-4地区のアップに切り替わる。

「ここの中央にあるアミューズメント施設がアイツラのホームだ。…さーらーにッ!ヒャハッ!」
笑い声と共に画面が切り替わる。今度は3Dで作られた図面のような映像だ。

「これが中の状態だ。兵隊はこのアミューズメントフロアにいる。で、お目当てのヘッドさんは…この受付から入った従業員控室にいるってわーけ。ヒャハ!」
「へーぇ。さすがだね。この情報量は…。出来れば、なるべく頑張んないでいいようにしたいんで、兵隊の少ないトコとかないの?」
「ヒャハッ!わかってんよ。こっちに裏口がある。ここからの出入りは今んとこヘッドを含めて3人しか確認されてないからここからなら上手く行くと思うゼ。」
正面入口から見て東の奥にある従業員入り口が赤くマーキングされ点滅する。

「ここからの突入なら3〜5人もいれば制圧できるんじゃね?まぁヘッドは本銃(マジチャカ)持ってるから1人、2人は死ぬかもだけど!ヒャハハッ!」
電王は完全に本来の自分を取り戻しいよいよ饒舌だ。だがそんな彼の上がりきったテンションはReal言葉でまた一気に下げられることになる。

「…お前のその笑い方…耳障りだなぁ…。」
「…ヒャ…ッ…」

電王が慌てて口をつぐむ。

「…まぁ、何にしても助かったよ。ありがとね。この情報は売り物?なんかと交換しなきゃだったりすんの?」
Realはいつものポーカーフェイスにすぐさま切り替わる、声のトーンも先刻のそれではない。
ただ電王だけはそのRealのペースに着いていけずに咽にモノがつかえた様な話し方で質問に答える。

「…いゃ…。まぁ、アンタ初回だし…サービスでいいよ…。」
「あんがとね。んじゃサービスついでにもう一コ頼んでイイ?」
「…なっなんだよ…。」
「アンタは『アイツラ』の情報ハックしてレッドキャップスのホーム映してんでしょ?…明日一日だけでいいから、アイツラがモニタしてる情報をすり替えてくんない?…明日一日だけレッドキャップスのホームでは何も起こらなかったことにしたいんだ。こんだけHDがあんだから、映像の記録もバックアップしてんでしょ?」
後に気がつくことになるが、電王はこの時全身に汗をかいていた。

Realの思考はどこまでも自分の先を読んでいる。ここでは自分がもっとも情報を持っている人間の筈だった。だが彼は…Realはそんな電王の情報をはるかに凌ぐ推理力で先読みをしてくる。

この男は危険だ。

電王もまたツーと同じ結論に至る。
「…わかったよ。それもサービスしといてやる。レッドキャップスんトコだけじゃななく、明日一日アンタが外を出歩いた情報を綺麗に消してやるよ。」
電王は大口を叩く。Realに引け目を感じないように精神的に少しでも優位に立つために。が、しかし既にそれ事態が彼の予測の範疇で電王はまるでRealの奴隷のように言われる事以上のことをしてやろうと従順に尽くしていることになっていることに電王はまだ気付いていない。

「…助かるよ。あんがとね。」
Realが笑いながら手を振り部屋を出ようとする。電王はやっと優位に立てたと錯覚して、端末から離れRealの基に駆け寄った。

「待てよ!コレ持ってきなっ!」
そう言って電王が投げたモノは携帯電話だった。

「…つかえるの?コレ。」
「周波数はいじってあるから此処でしかつかえない。そのかわり、誰にもバレない。登録してある番号はどれにかけても俺に繋がるようになってる。なんかあったら電話しな。サポートしてやんよ。」
「…あんたからコレにかけてくることも出来るの?」
「あたりめーじゃん。」
「…んじゃ、何かわかったら教えてよ。」
「何のことだよ?」
「『天宮和彦』のこと…まだ調べるんだろ?」

そう笑いながら語るとRealは踵を返しもと来た道を去って行く。

この男が心底恐ろしい。

電王は階段を下りて行くRealを見送りながらそう身震いした。