月の詩
十七歳隔離区域
第十五章  「人間の定義」
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「…ずいぶん大人しいイイ女になったじゃねぇか。」
熱っぽい吐息と共に男はそう言葉を漏らす。

相手からの返事はない。

「最初は濡れなくてヤリずらかったけど、俺のザーメンでドロドロでいい具合だぜ?…ヘヘッ。ヤレばヤルほどいい具合になっていくみたいだ。」
男はそう笑いながら呟くと、相手の乳房を弄った。
その乳房は温度を持たず、冷たい。

男の責めに対して、相手はただ無反応に横たわっていた。四肢はだらしなく垂れ下がり、首も座っておらず時折、だらりとベッドから垂れ下がる。まるで壊れた西洋人形のようだった。

額には風穴が空いている。男がマメにふき取っていたのか出血はもうない。ひょっとしたら男が穴に何か詰めたのかもしれないが…。

レッドキャップスのホーム。ヘッドの私室。そこにはノーネームのリーダーだった肉の塊が、ヘッドにより何度も何度も犯されていた。

「お前は俺の女だ…お前は俺からもう離れられない…お前は俺の女だ…なぁ?そうだろ?」
ヘッドは呪詛のように何度もそう言葉を唱える。

死体を犯す背徳感と自分のモノに出来たという満足感から訪れるエクスタシー。

ヘッドは何度目かの絶頂に達しようとしていた。

バタン。

不意に裏口のドアが開く。私室から裏口に続く通路はなく、扉を開けるとすぐに外界へと出られるようになっている。その扉が突然開いた。
外は、夕日が沈みはじめているのだろうか。朱色の光が目に飛び込んでくる。
私室を暗くしていたため、その光に男は目を細めた。扉に人が立っているが、逆光でシルエットくらいしかわからない。

「…誰だ?何勝手に入ってきてんだよ?」

ヘッドは目を凝らしながら、そう「シルエットの男」に問い掛ける。

「…それ…ウチのリーダーなんで。返してもらえる?」

聞き覚えのある声だった。そう記憶を辿ると共に、目が現状に慣れ男の顔がはっきりと見えるようになる。
「ナギサの偽物やってたヤツだな?…その銃はナギサから貰ったのか?」
ヘッドが睨みつけそう言い放った。

ジャキ。

その問いに答えるようにRealは撃鉄をおこし、拳銃を構える動作で答えた。

「…えらくナギサにご執心のようだな?こいつに骨抜きにされたか?生きてるコイツの具合がそんなに良かったか?なぁ。教えろよ?俺はもう思い出せないんだよ。何度ナギサを抱いても生きてるコイツの身体が思い出せないんだよ。」
「…」
ヘッドの卑下た問いに答える気はなかったが、コイツはもうイカレてるという事だけはわかった。Realはヘッドの動きに対応出来るように、銃口を突きつけ目線を切らさないようにし、沈黙のまま構え続けた。

「おいおい…えらくノリの悪いブラザーだな。なぁ?ナギサ。こんな男のどこが良かったんだよ?アイツのトコに戻りたいのか?
…でも駄目だな。オマエは俺の女だ。もう何処にも行かせねぇ!」
ヘッドはそう言うとリーダーだったモノを抱き上げる。首がぐるんと垂れ下がる姿がとても憐れだった。

「…まさか、お前…銃を持ってるから勝てるなんて思ってるんじゃないだろうな?お前だけがソレを持ってるワケじゃないんだぜ?」
そう言いながらヘッドは枕の下に手を忍ばせる。

「…それでも俺はもうトリガーを引くだけだからね。アンタより早く撃てる自信はあるよ。」
Realは銃口を突きつけそう言い放つ。

しばらくの沈黙が辺りを支配した。ヘッドは誰かがフロアからこっちに入ってくることを期待したが、自分が誰も入るなと言ったことを思いだして、その可能性に期待出来ないと悟った。

「…何故だ?」

不意にヘッドが言葉を発する。
「今更、死んだ女を取り返す必要がどこにある?」

その問いはもはや懇願のようにも聞こえた。Realはその問いを受け、もう動かなくなったリーダーを一瞬、横目で見て答える。

「さぁ…?…人間だからじゃないの?」

言葉を言い終わると同時に、Realはトリガーを引いた。