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陽は西に傾きはじめ、空は朱け色に染められていた。
ノーネームの「残留組」の8人は武器庫にある武器を手に取り、武装の準備を整えホームから一番近い「出入口」からその姿を現し、朱けに染まる西の空を見やる。
「Realが戻ってきても戻ってこなくても、いずれレッドキャップスはここに報復に来るだろう。それなら態勢が崩れているであろう今、攻め入ったほうが叩ける可能性がある。」
そう提案したのはギーだった。ツーとて、その案は考えなかったわけではない。ただ、混乱しているのはノーネームとて同じ事であった、今はヘヴィーな内容の言葉は避けたい。そう思いツーはその提案を口にすることを憚った。
ギーの提案に誰かが「やろう。」と言った。そして皆が口々にレッドキャップス制圧を掲げる。「自分よりギーの方が遥かにリーダーとしての才覚がある。」ツーはそんなことを思いながら自嘲気味に笑った。
Realから聴いたと言うこの「隔離区域」の真相をギーから伝えられ、レッドキャップスと抗争となり誰かを傷つけたり、殺めたりしたら此処からは抜けられないかもしれないという事実を知る。それでも闘おうとする決意の視線が西の空を射す。
そんな中、西からこちらへ向かってくる車を見つけた。
*** *** ***
車でノーネームの元へ来たのはRealだった。助手席にはシーツに包まれた「人型」が見てとれた。
Realはそれを抱え「ただいま。」と一言呟いた。
陽はいよいよ傾き、沈みはじめた頃、彼らは穴を掘っていた。
影は長く伸び、彼らの動作を大地に映し込む。細く伸びたそれは人間の影というよりは異形のモノで、その影は何かの儀式を行う悪魔のようにも見えた。
しかし、彼らが行っている行動の実は「葬儀」であり、それは神事と呼んでもよいほど、汚れのない作業である。
「…なんで、独りでこんなことしたんだよ。」
穴を掘りながらギーはRealに目を合わすでもなく、そう問い詰めるように言った。
「…あの時、してあげられなかったから…かな…。」
ギーの問いに、Realも目を合わす事なくそう答えた。ただツーだけはRealのその光を映さない漆黒の瞳を見ていた。
Realがまだ隔離区域に入る前、平穏な日常を送っていた頃。彼さえ愛さない彼自身を愛してくれた人がいた。どんな時でも彼を庇い、彼を信じ、味方してくれる聖母のような女性だった。
だが、社会的モラルに反するという謂れない差別と反感を受け、彼女は社会から阻害された。清らかで壊れやすい彼女の心はその社会的暴力に耐える事が出来なかった。
「護ってあげられなくてごめんね。」
彼女はそう泣きながら笑って、戻らない人になった。
彼女を弔うことは彼女の肉親が許さなかった。結局彼は、彼女の最期の言葉を胸に刻んだまま、それを最後に彼女に別れを言うことも、謝罪することも許されず、彼は「彼女を護って彼女の胸に抱かれて死にたかった」という幻想抱いたまま日々を過ごすことになった。だから「隔離区域」に来ることになった事も正直どうでもよかった。ただ罰を背負い息をするだけの抜け殻でしかなかった。
*** *** ***
リーダーを埋葬した後、夜に支配された隔離区域にノーネームのメンバーは火をくべた。彼女を弔うように火を焚いた。火の粉が天に向かって舞い上がるのをRealはただ座って見ていた。
Realが「レッドキャップスの報復は多分ない」と言ったことがノーネームの張りつめた心を解放していた。火の回りを戯れるように、はしゃぐメンバー達。その中にギーもいた。
そんな、まるでキャンプファイヤーのような賑やかな葬儀を壁に持たれながらRealは独り見ていた。
「コーヒーだ。飲むか?」
不意にツーが隣に来てそうカップを差し出す。Realがそれを受け取ると、ツーは彼の隣に腰を下ろした。
「…ギーは…強いね。」
Realは火の回りで戯れるギー達を見ながらそう呟いた。
「…そうだな…力では俺の方が上だろうが、きっとギーには勝てない。…俺もお前もな。」
ツーはRealの呟きにそう答える。Realはゆっくり目を閉じコーヒーを啜った。温もりと苦味が咽に染み込むのが心地よかった。
「ありがとう。」
しばらくの沈黙の後、ツーはそう感謝の言葉を述べた。
「…でもこれってさ…人間のエゴだよね。」
Realはツーの言葉に応えるでもなくそんな事を呟いた。
「…そうかもな。」
ツーはRealの言葉に賛同した。Realはその答えに満足そうに微笑んだ。
不意に大量の火の粉が風に煽られ天へ舞った。そしてその火の粉はやがて闇に溶けて消えていく。
なんとも儚げな光景を見ながらツーは「Realの微笑みは、まるでこの闇に舞う火の粉のようだ」そんな事を思った。
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