月の詩
十七歳隔離区域
第十七章  「近代の大量殺人者」
1

3ヶ月が経っていた。

ノーネームはツーの指揮の元、吸収、合併を繰り返し、今では隔離区域の80%を占める勢力にまで拡大していた。規律を重んじた秩序ある世界。
自給自足も確立され、争いのない平和な世界が「隔離区域」に生まれていた。

ギーは幹部として、精力的にツーの元で働いていた。
蓄電のシステムもそれなりに充実させ、外の生活とまでは行かないものの、そこそこの暮らしが出来るまでに隔離区域の生活は安定した。

Realはと言うと。
安寧に身を委ね。ゆっくりと平和を貪った。何をするでもなく日々を過ごす。端から見れば無意味な生でしかなかったが、彼にはそれが心地よかった。

しかし、平和な日常は突然の来訪者によって簡単に崩れ去る事となる。

雲一つ無い、蒼く済んだ空の中央に太陽を掲げる正午頃。

ノーネームのホームに向かって走ってくる1台のバイク。

バイクから降りた男は入り口付近で野菜に水を与えていたノーネームのメンバーの女に訪ねる。
「Realはどこだ?」
「自室で寝てると思いますけど…」
「案内してくれ。」
3ヶ月の安寧は警戒心すら忘れさせた。女はなんの警戒心も抱かずに突然の訪問者をRealの自室に案内した。

Realの部屋に入ると、当人はベットの中で眠っていた。
男はそのままRealに歩みより胸ぐらを掴みRealの上半身を起こす。
さすがに目を覚ましたRealは男を見やり、寝ぼけた頭の中から男の記憶を呼び覚ます。

「…電王じゃん。…久しぶ…っ」
Realの言葉を待たず電王はRealを殴りつけた。

これにはさすがにRealも目を覚まさざるえない。
「ってーな。…いきなり、何すんのよ?」
殴られベッドに叩きつけられたRealは身体を起こしながら、そう言葉を吐きだす。頭は冴えたものの、さすがに事態は飲み込めなかった。

「…なんで、電話に出なかった?」

電王が問い詰める。「電話?」Realは心の中で一瞬そう思ったが、すぐに電王から渡された携帯電話のことだと合点した。棚の中から衣類を漁り、携帯を探す。見つけ出してしばらく弄った後に、電王に携帯をヒラヒラさせながら「…ごめん。電池切れちゃってる。」と軽く謝罪する。
すると電王は再びRealに歩み寄り右手を振り降ろした。さすがに今度はRealも左手でその拳を制する。

「…連絡するの忘れてたのはごめんなさいだけど、なんで殴られなきゃなの?」
「とんでもないことになるぞ。」

Realの質問に答えるでもなく、電王はそう呟いた。

「なに?なに?どうしたの?…ッゲ!電王じゃん!?」
Realの部屋に押し掛けるように入ってきたのはギーだった。その後ろにはツーの姿もある。電王はRealの部屋に案内してくれた女の姿がないことから、この二人を呼びに行ったのだと了解した。

「調度良い。「此処」ではオマエらがトップって言ってもいいからな。お前らにも話しておこう。ギー、パソコンはあるんだろ?ちょっと触らせろよ。」

天高く掲げられた、太陽は光をより強め出した。

白々しいほどに煌々しく照りつける太陽。

カリソメの空間のカリソメの平和に終焉を告げる…そんな光に思えた。

2

4人はギーの部屋に集まっていた。

電王はギーの端末を操作すると10分と経たずに自分のパソコンに接続してみせる。

「あいかわらず凄いな…。」

言葉には出さなかったがギーは電王のその技術に心の中で賞賛を讃えていた。

端末を操作し電王は「隔離区域登録被験体識別番号一覧」というページにアクセスをする。そこには認証IDと本名、誕生年月日の一覧が表示されていた。

「Real…悪いがアンタの秘密をここで公開することになるが…かまわないな?」
核心へと迫る前に電王はRealに、そう了承を取る。

さすがにこれにはRealも考えた。自分も知らない情報がおそらくこの中には入っているのだろう。それに行き着いた電王は何かしらの警告をするために此処に来た。それが自分にとってもノーネームにとっても…もしかするとこの隔離区域の住人全てにとって何らかのマイナスの情報であることは間違いない。

「…知らぬが仏って言葉もあるんだけどな…。」

Realは頭を掻きながらポツリとそう言葉を漏らす。その後、少しだけ間を置いて、少しだけ真剣な顔で、「そうも言ってられないんだろう?」そう、電王の問いに了承する種の答えを返した。
その返答に、電王はRealからモニタに目を移し替える。

「…OK! さて、まずは問題だ。」
核心へ迫る前に、電王は急に謎掛けを持ち出した。

「近代…一番人を殺したのは誰だと思う?」
電王の突拍子もない謎掛け。

「…ヒトラーだろ。」
その問いに間を置かず、ツーがそう答える。

「…いいねぇ。じゃあ日本に限定した場合はどうだ?」
電王はさらに謎掛けを続けた。

「松本智津夫…えっと麻原彰晃だっけ?」
今度はギーが問いにそう答える。

「…違うな。…そんなん比べ物にならないほど、人を殺した男がいるだろ?」
電王はそうギーの意見を非却する。

暫く考える時間を持ったが答えは出そうになかった。痺れを切らした電王はRealに解答権を降る。
「Real…お前はどう思う?」

電王の問いにひと呼吸置いてRealは答えた。
「…昭和天皇だろ?」
「…ヒャハッ!」

電王は満足そうに笑い声を上げると「天宮和彦」の項目をクリックした。すると「天宮和彦」の写真を含む詳細情報が映し出される…はずだった。
「…なんだよコレ?全部「No Data」じゃん?…天宮和彦、17歳、誕生日19XX年4月1日、私生児…って…こんだけ?」
ギーが眉を潜めながらモニタに映し出された情報を読み上げる。

「…そう。「露骨に隠蔽」されていやがる。他の人間は両親の名前と犯罪歴なんかも詳細に出てくるのに、Real…天宮和彦には一切の情報が掲示されていない。…最初は解らなかったのかと思って素通りしていたが、そうじゃない。さっきも言ったがこれは「露骨に隠蔽」してやがるんだ。」
そう言うと電王はセキュリティをクラックするために、コマンド入力画面へと切り替え、無数の英文書と記号からなる、プログラムを入力していく。

するとそこには「適合率98%被験体」というページが映し出された。

ドクン。

自分の心臓が過剰に脈打つ音をRealは必死に押さえようと心を鎮めていた。
その先にはきっと絶望する意外の答えなんて用意されていない。
そう思いながら電王の開く「適合率98%被験体」のウィンドウを見ていた。