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パンドラの匣が開かれる。
全ての災いが吐きだされた後、最後に「希望」が現れたパンドラの匣。しかし…隔離区域に現れたその匣からは「希望」など見つけることなど出来はしないのだろう。
隔離区域に起こる出来事はいつだって、誰も贖うことなどできない「絶望」だけだ。
電王は端末を操作する。映しだされたのはRealの真実だ。
「…これは…。」
それを目の前にして4人の内、唯一ツーだけが唇を動かした。
ID070814:男 卵子〈連続男児殺害犯:死刑囚 ランクS〉
「G」との遺伝子適合率98%。現段階での最高適合率を持つ検体だ。受胎後の経過も以上なし。生後3ヶ月目に「Z」夫妻のもとに引き渡される。
「Z」のもとではあらゆる戦術、兵法、軍事訓練などを学ばせる計画で契約を結んでいる。以後経過の報告が有り次第、所見を書き記す。
その後に書かれている内容は、かいつまんで話せばこんな感じだ。
Realは名前も付けられずにその「Z」夫妻のもとで「英才教育」を受けさせられる。「Z」夫妻は自称革命家を名乗るテロリストのリーダーであり、実際にも国家を2つ程転覆させたことのある実績を持つ。Realはそこで人としてではなく、ある種モノとして扱われていた。
中学を2年程過ぎたころ、Realは逃亡を計る。「Z」夫妻から徹底的に「英才教育」を受けた彼は見事に「Z」夫妻から逃げ切ることに成功する。
その後、様々な組織を点々とし、仮の国籍、住民票を得る。その時、名付けた名前が「天宮和彦」だ。麻雀の代打ちで生計を立てていた彼は「天和」という役に恵まれた希有な存在であった。周りの人間は名前を持たない彼を冗談半分で「アマカズ」と呼んでいた。彼はその名前を流用して自分のモノとしたのだ。
その後、代打ちをしていた組の粋狂な組頭が「天宮和彦」を高校に進学させ、彼は自分ですら愛せなかった自分を愛してくれる大切な人間に出会う、そこで初めて「天宮和彦」は人と成りえた。だがその幸福は脆くも崩れ去り、彼には再び虚無だけが残った。
隔離区域に入る前の「天宮和彦」の経歴を纏めるとこんな感じだ。そして、その一文は最後にこう結ばれる。「環境としては悪くない「条件」で育ったと言える。隔離区域でどの様な「特性」が現れるかが楽しみだ。」
おそらくこの「研究」に携わっているイカレタ人間の考察であろう。その後、文章は隔離区域内の毎日の「天宮和彦」の行動を書き記し、考察していた。
「…まぁ…あの人たちが俺の親じゃないってのは、なんとなく気付いてたけど…。」
読み終えたRealが声を発する。
「…まさか…ツクリモノだったとはね…。俺自身が。」
口元は笑っているものの、その目は輝きを持たぬ深闇。それは悲哀とも憎悪とも取れる瞳であった。
ガンッ。
「…ハラワタが煮えくり返りそうだよ。」
ツーが壁を殴りながらそう吐き捨てた。
「…奇遇だね〜。…俺もそんなカンジ。」
そう言うと電王はさらにウィンドウを開いた。
そこに映しだされたのは、見覚えのある写真。そう、自分たちの写真だ。いずれも「G」との遺伝子適合率のパーセンテージが記載されている自分たち。各々の項目に書かれている卵子の持ち主は自分の親ではないことが解る。
「…ま…まさかこれって…。」
ギーの発する言葉が震える。
「そういうことだよ。Realは成功例で俺達は失敗例…要するに異母兄弟ってわけさ。隔離区域の人間は全員「G」の子供だよ…!ヒャハハ…ハハッ…。」
電王の笑い声が無言の部屋に空しく響く。
斯くして「パンドラの匣」は開かれた。隔離区域に現れたその匣からは「希望」など見つけることなど出来はしないのだろう。
隔離区域に起こる出来事はいつだって、誰も贖うことなどできない「絶望」だけだ。
2
端末から映されたその数々の「真実」は知らずともよい物語。
自分たちの存在は、知らない「誰か」に操られたモノであり、今まで「親」だと思っていた「犯罪者」は実は金で雇われたただの他人であった。
そんな「真実」など知らずともよかった筈だ。
されども彼らには知らねばならない理由があった。それが辛く苦しい結末であろうとも彼らは知らなければならなかったのだ。
だがしかし、最後の疑問が残されている。それは「G」とは何であるのかという事だ。
彼らは一様に「G」という人物の遺伝子を受け継いでいる。そして母親は獄中の犯罪者であったり、出所した犯罪者であったり様々ではあったが、前者は刑期を大幅に短縮すると言う事を条件に、後者は纏まった金額を受け取る為にそれぞれ人工授精を行い、「G」の遺伝子を持つ子供を孕んだ。
「…なぁ…。俺達の本当の父親って…「G」って一体…。」
誰もが言葉を失い沈黙している中、ギーがそう言葉を放つ。
「アメリカ人の考えたブラックジョークって意味なら…」
振り返らず端末を見つめたまま、電王はそうギーの質問に返答しようとする。
ここで少し、この世界の現状を…何故、隔離区域が産まれたのかを話そう。
覚えているであろうか。
この隔離区域を管理している者が「自衛隊」ではなく「軍人」であったことを。
覚えているであろうか。
この隔離区域はかつて「首都」であった東京にあるということを。
少し昔の話になるが、独りの日本人のハッカーの17歳が、ちょっとした悪戯をした。そのちょっとした悪戯は日米の関係をちょっとだけ悪くする。それが原因で、あるいはそれを「大義名分」として、世界の情勢は少しずつおかしくなり、やがてテレビゲームの世界のような「第二次太平洋戦争」と言うものが勃発する。
当初、日本は「第三次世界大戦」だと言い放ったが、結局その他のアジア勢もロシアもその戦争に参戦することはなかった。(一部、東南アジアの小国が参戦していたようだが。)
「自衛」という手段しか持たない日本と言う国がアメリカという大国を攻め落とせる筈もなく日本は「開戦」からわずか17日目で白旗を降るお粗末な結果となる。結局その戦争で死んだ人間は最初に情報収集の為に潜入していた海自の潜水艦クルー65名だけであった。
そんな「戦争」とは到底言えないような戦歴を終え、日本は国ではなくアメリカ合衆国に取り込まれ「州」となった。(東京という首都はその目的を失い、アメリカから統治を任された親日家の人間が名古屋市に邸宅を構えていた流れを受け、愛知県に主要機関は移行することとなる。)その後、パフォーマンス好きの州知事が近年多発している「17歳」の犯罪という問題を取り上げ、「隔離区域」を作りだした。もっともこの真実を知ってしまった今では、この「隔離区域」の設立にはもっと「作為的」な何かがあったであろう事は容易に想像できるが…。
「アメリカ人の考えたブラックジョークって意味なら…」電王はその言葉の後に続く言葉を紡いだ。
「Grandpa(グランパ)とか…それかGod(神)とか?…ヒャハっ。」
「…まったく笑えんな。そのブラックユーモアは。」
電王の発想に苦言を呈すツー。
「…いやだから意味じゃなくてさ…。みんな解ってんの?「G」って誰よ?」
ギーは置いていかれた子供のように戸惑いながら問い掛ける。
「最初に問題出しただろ?「近代一番人を殺したのは誰でしょう?」って。正解者はRealだよ。」
電王から語られる衝撃の真実。
「…は?…なんだよそれ。そんなワケないじゃん。どんだけ過去の人だよ?」
「方法はいくらでもあるだろうよ?「人の世の神」の希有な遺伝子だからな。あの時(第二次世界大戦時)、誰かが保管しててもおかしくはないんじゃねーの?ナチスに習ってイカレタ人体実験してた「国」だったみたいだしな。日本って国は。」
電王の言葉に再び沈黙が辺りを支配する。
「…Genocide(大量殺戮)って意味もあったのかもな。」
Realが沈黙にぽつりと言葉を落とした。
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