月の詩
十七歳隔離区域
第二章  「かくして羊は狼に狩られる」
1

隔離された街。
正式名称は「更生協調訓練区域」。通称「十七歳隔離区域」。

彼らはその門をくぐり、ついにそこで18歳になるまでの一年間を過ごすこととなった。

「自由だーーーーっ!」

独りの十七歳の青年が高々と声を上げる。

「ひまくせーガッコもねぇ!」
「口うるせー親もいねー!」

それを引き金に十七歳たちは口々に喜びを漏らしはじめた。
そんな同世代を見ながら彼はふと空を見上げた。
隔離された閉鎖空間に広がる空。どこまでも高い空。
本当にここは自由なのだろうか?そんな哲学的な妄想を独りごちる。
そして、その疑問は予想もつかない形で、その解答を得ることとなる。

「きゃあぁぁぁぁぁぁーーー!!」

十七歳の女性が急に悲鳴を上げた。
よく見るとその隣で、倒れている男がいる。
なぜ倒れているのか最初は良くわからなかった。その男の服が赤く染まりだし、地面にまでその赤色が流れ出たところで、初めてそれが血であることに気づく。

よく見れば男の背中ににはナイフが刺さっていた。

「きゃあぁぁぁぁぁぁーーー!!」

女性は叫び続けていた、そしてそれに連鎖反応を起こしたかのように他の十七歳の女性達も叫び声を上げる。

ゴッ。

叫び声の中に鈍い音が混じる。最初に悲鳴を上げた女性が今度は勢い良く倒れた。

「うるせーよ。」

その後ろにはここに入るまでには見ていない男が立っていた。そう…つまりは此処の「居住者」だ。

その時、初めて自分たちが囲まれていることに気づいた、囲んでいる人間たちは皆、赤のキャップやバンダナを頭に巻いている。

再び二人の「人」が横たわる方へと視線を戻した。

男の方はもう、身動き一つしていないが、女の方はまだ小刻みに痙攣を繰り返し、生きていることを確認できる。

「何?お前まだ一発で殺れねーの?」
「っせーな。小刀と違って釘バットは必殺が難いんだ…よっ!」

言い終わると同時に赤いバンダナを巻いた男は再び痙攣している女性の頭部にバットを振り下ろす。

ゴッ…。

二度目の鈍い音と共に、鮮血と脳漿があたりに四散した。

2

「おいおい!貴重な女を殺すんじゃねーぞ!テメーも頭蓋砕かれてーのか?」
「すっ…すいませんでした!!」

一人の大柄な男がそう言うと、さっきまでの態度が嘘のように萎縮するバンダナの男達。
おそらくはこの大柄な男がリーダー格なのだろう。

「女は大事な財産だろーが、殺しちまったら楽しめねぇ。」
「はい!」

赤い集団が統率され、編隊を組む。

「新規入居者諸君!隔離区域への入居、誠におめでとう!!
ここはパラダイスだ!一部の勝ち残った者にとってはな!
がんばって生き残りたまえ!!
それでは、〈レッドキャップス〉による新人歓迎会を執り行う!」

その言葉と共に一斉に襲いかかる〈レッドキャップス〉。それはもはや一方的な殺戮。男は殺され、女は剥かれて強姦される。まさに「地獄絵図」だった。

「くそっ…!」

彼はあたりを見回し、巧く襲撃を避け一番手薄なところを突き抜けた。途中、2、3人の襲撃にあったが彼の方が強さが勝っていた為、なんとか逃げ切れた。

心臓が張り裂けそうなほど全力で走った。追っ手も巻いたであろうと思い、やっとのことで建物と建物の間にある狭い路地へ身を隠し、呼吸を整える。

せっかく着替えた「囚人服」は、もはや汗で濡れてしまっていた。

「ハァ…ハァ…ったく…いったい何だってんだ。彼奴ら…いかれてやがる。本当に人を殺しやがった…」

呼吸を整えながら先刻の地獄絵図を頭の中でもう一度処理し直す。しかし、打ち出される結論は冷徹なもので、それは紛れもない「現実」であるということ。

「君…新人さん?」

不意に後ろから声が聞こえ彼は身構える。

「おっと。ボクはレッドキャップスの人間じゃないから大丈夫!平和主義者です!」

両手を上に掲げ降参のポーズ。その男はマンホールから上半身だけだしてそう語った。

3

マンホールから上半身を出し両手を上に降参のポーズを取っていた彼の導きから、十七歳の彼はマンホールのフタを閉め水路の迷宮へと、足を進めた。

「あっ。自己紹介がまだだったね。ボクは技術屋のギー。みんなそうやって呼んでるからギーって呼んでくれればいいよ。」
「あぁ。俺は…」
「あ〜!タンマ!タンマ!本名は明かさない方がいいよ!ボクがどうこうするわけじゃないけど…ここでは本名を知られるのは弱点でしかないんだ。本名がわかれば戸籍が調べられる。戸籍がわかれば、誕生日がわかるっしょ?そうなると、出てく前に狙われる可能性大だかんね。」
「どういうことだ?」
「んじゃ、ついでにいろいろ説明すんね。隔離区域ではみんないくつかのグループを形成して共存生活を送ってるんだ。一人で生きてくには、ココはあまりにも危険が多いからね。んで、ボクが所属してるチームは「ノーネーム」。
名前なんてどうだっていいんだってさ。ウチのリーダー。
んで、さっきのレッドキャップスはココのNo.1勢力の過激武闘派集団。他のチームのやつらも煙たがってるけど、武力じゃ勝てないからね。現状は泣き寝入り。
出たくても出れないんだよ。彼奴等がいるから。出ようとすると殺されるんだ。『ここを出ようとする生意気な奴は死んじまえ』ってね。
んなとこかな?その他に何か聞きたいことは?」
「…ココはなんなんだ?」

「…地獄だよ。」
暫くの間を空けそう答えると、今まで明るく振る舞っていたギーの顔が少しだけ曇った。彼からしてみたら明るく子供っぽい印象を受けたギー。自分と同世代というよりは少し下に見えていたが、この時はじめてギーを年配者に感じた。

「もうすぐ基地につくからね。」

彼が考え込んでいると、ギーがもとの明るい声に戻ってそう先を指さした。

水路から少し開けたその場所は貯水庫のような空間になっていて、そこにはおおよそ生活に必要なものが全てそろっている。

「電気は生きてるのか…。」

今まで歩いてきた水路は光源はありそうなものの、全て電気は着いていなかった。彼は電力の供給も隔離区域は断たれている。そう思っていたのだ。

「まさか!ここは自家発電!電気系統はほとんどイカレちゃっててつかないよ。生きてるトコもないわけじゃないけど。」
「…なるほどな…。だから「ギー」だったな。」

「そういうこと。」

ギーはそう言うと屈託なく笑った。それに釣られて彼も笑みをこぼす。その時彼は隔離区域に来て初めて笑ったのかもしれない。