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「よう…優性。」
壁にもたれて夜空を見上げながら、煙草を燻らすRealに電王はそう声をかける。
「…なに?ケンカ売ってんの?…今なら機嫌も良くないし高価買い取りしちゃうよ?」
Realは電王の嫌みの篭った「優性」という言葉に、そう言葉を返す。
「…ヒャハッ!お前の持ち合わせで足りるかなぁ〜?」
電王は負けじとそう突っかかる。
「ここはノーネームのホームだぞ?お前が不利になるだけだ。やめておけ。」
電王の後ろから声が聞こえる。覗き込むと、そこにいたのはツーだった。隣にはギーもいる。
結局、先刻の会話を終えてから、独りで外に出てきたRealのもとにまた4人が揃うことになってしまった。
「…で、どうするんだ?」
ツーの主語のない問い掛け。Realへの投げ掛けであることは容易に想像できた。
「…電王とケンカするかどうかってこと?」
Realがそう問い掛けに問い掛けて返す。
「…。」
以前はこの空気を読まない飄々とした態度、物言いが全て自分の神経を逆なでする為であると思っていたツーであったが、この3ヶ月間の付き合いで解ったことがある。Realの言動がズレている時、Realは答えをはぐらかしているのだ。
「…2ヶ月後のことだ。」
ツーは以前のように声を荒げることなく、そう問い直した。
「…う〜ん。」
Realはバツが悪そうに、目を合わすこともせずに、そう考えるかのように言葉を吐いた。
「まぁ…俺はやられっぱなしのまま終るのはゴメンだね。勝てないまでもなんとかしてやるさ。」
壁に持たれながら電王はそう自信に誓うかのように想いを声に出す。その瞳はしっかりと前を見据え力強いモノであった。普段はイカレタ人間を演じている彼の覚悟の眼差し。
「そうだな…どっちにしろ戦うんだろう…俺達は。」
ツーも電王の考え方に賛同する。
「派手に散りますか。パーっとね!」
電王が空に手を広げるジェスチャーを交えて少し声のボリュームを上げてそう言い捨てる。
相手は軍隊だ。いくら戦闘訓練をしたって、いくら戦術を覚えたって「犯罪遺伝子」を持つだけで、所詮は十七歳。
勝てるワケなどない。
電王もツーも、もはや開き直りの精神にも似た諦念から来る思考で、既にこれから来るであろう「負け戦」にどう生きるか。ではなく「どう生きたか。」を求めはじめている。
「…Realはどうなの?」
不意にギーがそう問い掛ける。ここに4人揃ってからは、はじめての彼の発言だった。
Realはギーに目を合わすこともせず、沈黙のまま夜空を見上げ煙草を燻らす。
「…Realは戦うの?」
沈黙に対して再度ギーは問い掛ける。Realは煙草の煙をゆっくりと吐き出して、ギーとはじめて目線を合わせた。
「…わかんないよ。」
Realの返答。しかし、ギーの向ける視線はその解答では納得出来ないと言った感じだ。視線が痛いほど真っ直ぐに自分に向けられることにRealは耐えきれずに目線を反らす。
「…優性とか言ってるけど…俺なんてただの雑種だよ。だからいつだって自分の思い描いた通りになんて行かない。だから今まで誰も救えなかった。「あの時」だって、りっちゃんの時だって…。」
掴もうとしたものはいつだってその手をすり抜けていく。Realは自分が吐き出した煙を掴む動作をしながら、そう言い放った。
「それは、Realも勝てないって思ってるってこと?戦う前から諦めてるってこと?」
ギーは尚も真っ直ぐにそう問い続ける。
「…相手は軍隊だぜ?日本の自衛隊だって簡単に負けちまった連中に俺達が勝てるワケがねーってことぐらいお前だって判るだろ!?」
ギーの問いにいらだつように叫んだのは電王だった。
「わっかんねぇーよ!死んだら負けなら勝つしかねぇじゃん!!…死にたくねぇし負けたくもねぇよ!!だったら勝つしか無いだろ!?カッコつけて潔く負けるなんて、別にカッコイイなんて思わねぇし、思いたくもねぇよ!醜くもがいたって…足掻いたって生き残りゃ良いじゃん!…俺、絶対間違ってないからなっ!!」
ギーはそう捲し立てるように叫ぶと最後に壁を「ドン」とひと殴りして、建物の中に戻って言った。
「…チッ。これだからガキは…。」
電王は吐き捨てるようにそう呟き、俯く。
「…ガキか…。」
電王の語尾だけを復唱し、ツーも踵を返して建物の入り口に歩いていった。
「…ヒャハッ!なんだよ?あんたも現実から逃げてくのか?」
電王が今度はツーに突っかかるようにそう言い放つ。
「…ギーは逃げてなどいないだろう?逃げていたのはオレ達の方だ。」
ツーは振り返り電王の言葉にそう応える。
「…俺も覚悟を決めてみるよ。醜く生き残る覚悟ってヤツをな。」
そう言い残すと電王も建物内に消えていった。
「…たくっ。どいつもこいつも。」
悪態をつきながら、電王は力なく座り込む。
その肩をRealが「ポン」と叩いた。
「俺も、お前も…みんな結局十七歳のガキなんだよ。」
Realは煙草を燻らしながらそう、電王を諭して夜の闇を独りで歩き出した。
独り残された電王は夜空に悪態の続きを吐くように「チッ。」と舌打ちをして俯きながら口の先を釣り上げた。
Realは闇を歩いていた。
何度目かの煙草に手を伸ばすと、残りが一本になっていることに気付く。
最後の一本に火を着け、ゆっくりと煙を肺に含ませて夜空に吐き出してみる。
「生き残る覚悟…か…。」
先刻のツーの言葉を反芻しながら夜空を眺める。
「…自分が一番逃げてきたコト…なんだけどね…。」
そう呟くと歩みを止めた。
もう一度煙草を肺に含み、ゆっくりと先刻よりもさらにゆっくりと煙を吐き出す。
「…もう一度だけ、頑張って見てもいいのかな?」
煙の後に吐き出した言葉は、夜空に許しを請うような問い。
Realはその時、夜空に誰かの姿を描いて問い掛けたのかもしれない。
その問いは夜空に霧散して、消えてしまい答えなど返ってはこない。それでもRealは満足そうに、少し自嘲的に微笑んだ。それは長らく逃げ続けた何かに対する決意のようにも思えた。
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