月の詩
十七歳隔離区域
第二十一章  「明日の値段」
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パントラの匣。
その匣の中には様々な厄災が、悪夢が、絶望が詰まっていた。しかし匣の底には、最後に希望が残されていたという。
この、厄災と悪夢と絶望に敷き詰められた「隔離区域」には果たして、「希望」が残されているのであろうか。
いよいよXデーを明日に控えた11月の午後。

ノーネームのホームには隔離区域に住まう十七歳のほぼ全てが集っていた。
その数およそ300。
少し高く設けられた台上にはツーの姿が見て取れた。
「明日に備え、各々様々な準備をしてきたことと思う!戦いの時は来た。我々は戦わなくてはならない!」
ツーの演説に300人の大衆が雄叫びを上げる。

「しかし!!」
その雄叫びを遮るようにツーが声を張り上げる。

「これは勝つ為の戦いではない!生きるための戦いであることを各々胸に刻んで欲しい。この戦いに勝利することとは我々が生き残る事なのだ!!」
ツーはそう最後に言葉を付け加えると各グループのリーダーに携帯電話とイヤホンマイクを渡した。
これは電王が改造したもので、電王が「王国」からモニタリングしている隔離区域の情報を逐一伝達するためのものだ。かつて日本と言う国の首都であった東京という都市には、携帯屋は腐るほどあった。人数分揃えることなどたやすい事だった。

そして明日の準備が終ると、隔離区域に残されたありったけの食料を持ち寄った前夜祭が行われた。

Real、電王、ギーの姿はそこには無かった。

「こいつを繋いでおけば、完ぺきだな。スピード的にはそこら辺の小さいサーバー会社よりよっぽど早いはずだ。」
電王は太い回線をギーの端末に接続しながらそう呟く。
「…これで、お前のモニタしているデータがこっちでも見れるってこと?」
電王の作業を見ながらギーはそう訪ねる。

二人はギーの私室にいた。電王の城に比べれば機材は見劣りするがそれでもその設備は大したものだった。そこに電王はギーとの情報のやり取りが出来るように専用の回線を引く作業をしていた。

「ライブで見れるぜ。しかも毎秒4GBは転送できる。ヒャハハッ!」
電王はそう言いながらギーを見て笑った。

「そんなスピード上げる必要あるのかよ?」
「…これは保険だよ。」
ギーの続けざまの質問に今度は目を合わせず笑いもせずに電王はそう答えた。

「ハードのライドはしてあるよな?CPUもマックスまで入れとけよ。」
電王はそう話題を変えるように指示を出しながら接続を終えて、パンパンと手をはたきながら立ち上がる。

「Realはまだ戻ってないのか?」

不意に後ろから声が聞こえ二人は振り返る。そこには大皿に大量の料理と袋に飲み物を下げたツーがいた。
「オイオイ!ここにそれ持ち込む気じゃねーだろーな?ここは飲食厳禁だぜ?」
「あぁ…すまん。となりの部屋に置いておく。」
電王の物言いに珍しく動揺し、隣の部屋にそそくさと荷物を置きに行くツー。それが面白くてギーは笑った。

「さて、んじゃ俺達もご馳走にありつくとするか?」
電王はそう言って笑うギーを即し、ツーの入っていった部屋へ移動した。
「…Real遅いね。」
食事をしながらそう呟くギー。
「監視に引っ掛かるワケにもいかないからな。土竜の作った穴を這いずり回ってるんだろーよ。…迷子になってたりしてなっ!ヒャハッ!」
電王は冗談を言うようにそう笑った。

「だれが迷子になってんのよ?」
電王の冗談に答えたのはタイミングよく帰宅したRealだった。

「お疲れさん!」
そう言うとギーはRealに缶コーヒーを投げる。
「ビールあるじゃん。そっち頂戴。」
缶コーヒーを受け取りながらも、電王の隣のビールを即すReal。
「明日に備えて程々にしとけよ。」
諭すツー。
「大丈夫でしょ?」
そう言って缶ビールを空け咽を潤す。
「だいぶ時間喰ったみたいだな。ちゃんと出来たか?」
「最後の一個は一番デカイヤツだからね。ミスも出来ないし。俺だって慎重にもなるよ。」
電王の問いにそう答えながら煙草に火をつける。
「…いよいよ明日だな。」
ツーがひと呼吸置いてそう呟いた。

「ヒャハハハッ!貧乏くじ…引いちまったもんだよな。」
ツーの言葉に電王はそう笑う。

「…最後にもう一度、確認しておくが…この時点で降りたいヤツはいるか?」
ツーが3人を見てそう問う。

しばしの沈黙。
「それこそ今更だよ。」
そう言いながらギーも笑う。

その言葉にツーはそれ以上何も言わずに、飲み物を一口飲み込んだ。

「Real、これ食べる?「レンジでチンする宮崎牛ステーキ」!なんと1パック4,500円!!」
そう言ってギーが更に盛られたステーキを差し出す。
「…これが俺達の明日の値段か。」
そう言いながら眉を潜めるRealに3人が笑う。それを見てRealも微笑む。
決戦の前夜。
決意を胸に秘める4人。
各々の微笑みはどこか清々しさに満ちていた。