月の詩
十七歳隔離区域
第二十二章  「宵やみの安息、躊躇いに微笑み」
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決戦前夜。…と言っても、時刻は12時を周り午前2時。
前夜祭は明日に備えられ早々と終幕を迎え、各自持ち場や自室に戻って睡眠をとっている。これもツーが積み上げてきた「秩序」のたまものだった。
今ではあのレッドキャップスの残党でさえ、ツーのルールに従っている。
静寂に包まれる丑三つ刻。
しかし、耳を澄ますとコツコツと一定のテンポで何かを打ち付ける音が聞こえる。
少し鈍い、鈍器で何かを叩くような音だ。

音の犯人はRealだった。
いつものように壁にもたれ掛かり、頭を前後に振る。そして壁に軽く後頭部を打ち付ける。コツコツと。その音だけが静寂に包まれた夜に響いていた。もちろん、強く打ち付けているワケではないので、その音が響くのはRealの自室の界隈のみではあるが。

この動作はRealのクセである。彼は考え事をしている時、無意識にその動作をするクセがあった。後頭部に軽く振動を当てると、脳が揺さぶられる。すると脳の中にしまい込まれたアイデアの引き出しの戸が緩み、何かいいアイデアが思いつくのではないか。Real自信は以前自分のこのクセにそんな理屈を設けたことがあった。もっともそれはあくまで理屈でしかなく、アイデアが出ることなど一度も無かったが…。それでも頭は何か整理された気になる。そんな程度の特に意味のない一連の動作だ。

「眠れないのか?」

不意に入り口から声が響く。声の向くほうに目を向けると、そこに立っていたのはツーだった。

「…緊張しーだからね。明日のこと考えるとどうしてもさ」
後頭部を壁に小突く動作を止め、Realはツーの質問にそう答えた。
「…何だか懐かしいな」
「何が?」
ツーの主語の無い感慨に耽る言葉にRealは問う。
「お前の「緊張しー」って言葉だよ」
Realの問いにツーはそう答えた。
「…言ったことあったっけ?そんなこと」
「お前がここに来た日の集会の後にな。お前に食ってかかった俺にお前はそう言って笑ったんだよ。」
「ははっ。そうだっけ?…あの頃は、ツーさんに嫌われてたもんね。」
「今も別に好いてはいないがな」
暗がりでツーの顔の表情までは見えないが、そう言ってツーが笑っているのであろうことはわかった。この返しはツーのジョークだ。
「確かに。男に好かれるのは気持ち悪いかんね」
ツーの言葉がジョークであるとを踏まえRealはそう言葉を返す。声には出さなかったがきっと二人とも、そのやり取りに笑ったのだと思う。

「以前、ギーに相談されたことがある」
ツーは不意に話題を変えた。
「何?」
「Realは裏切るつもりかもしれない…Realを見ていると不安になるんだってな。お前、ギーに「自分は13番目のユダ」だって言ったことがあるだろ?」
「…ごめん。覚えてない。」
ツーの言葉にRealはそう謝罪する。が、しかし覚えていないワケではなかった。あの時の自分には群れるという意識など全く無かった。干渉されたく無いがために、周りを拒絶していた。自分に不利益なことが起こるようならいつでもチームから抜ける。そんなつもりでいた。しかし、過去の素性や果ては知らなくても良かった共通の真実を知った今、その本心を語るのがなんとも気恥ずかしくRealはそう、とぼけて見せた。

「お前との付き合いは、たった半年足らずだがな。それでも毎日のように顔を突き合わせてきた仲だ。今ならギーの問いにこう答えるだろう。「俺達は友達じゃない、けど仲間だ」ってな」
ツーはRealの謝罪に触れることは無く、今自分の思っていることを素直に言葉にした。
「ずっりー…」
そう呟くとRealは俯く。
「そんなこと言われたら、もう裏切れないじゃん。」
Realは照れからツーの顔も見れず、俯いたままそう呟いた。

「もう寝ろ。明日はきっと長い一日になる。」
ツーはそう話しを切り上げて部屋の入り口にもたれていた体を起こす。

「ツーさん。」
不意にRealがツーを呼び止めた。
「…俺、死ぬなら誰だったか解らなくなるくらい粉々になりたいな。」
今度は顔を起こし、暗がりに見えるツーのシルエットを見据えそう言葉を発した。

「…バカなことを言うな。生きてまた外で会おう。」
その言葉を最後にツーは部屋を後にした。

「あー…っ。ちょっとすっきりした。寝れそうかも。」
そういって天井を仰ぐReal。
決戦を前に少しだけ肩の荷が降りた気がした。