月の詩
十七歳隔離区域
第二十四章  「忍び寄るは狩人群れ」
1

ズズズズズ…。

地獄の門が開く。その中に乗り込んでくるのは防護服に身を包んだ狩人達。
数はおよそ200。
各々が銃を携え乗り込んでくる。

「各小隊編成を崩すな!開門時の迎撃に備えろ!」
大佐と呼ばる人物が、兵士全員に警戒を促す。
「…大佐。これは隔離区域内の感染状況の確認と感染者の収容任務ですよね?迎撃って一体…」
大佐の命令に疑問を投げ掛ける兵士が一人。
「…死にたくなかったら迎撃に備えるんだ」
そう言うと大佐は無線でのやり取りを終了させた。

ズズズズズ…。

軍人達が開けようとしている扉は、通称「入域門」と呼ばれるゲート。それは左右開閉式の重いコンクリートの扉で、隔離区域内に入域する十六歳が通るゲートだ。逆に「退域門」と言うものもあり、こちらは隔離区域から外へと出れる扉。人が一人通るのがやっとの強化カーボンの扉だ。共通点は各々開けるためのスイッチが片側にしかないこと。異なる点は「入域門」が一度に10人以上通れるのとは逆に、「退域門」は一人が通ることがやっとであること。そして、「入域門」が開門に数分を要することに対し、「退域門」数秒で開門が完了するということ。

ズズズズズ…。

数分間の鈍く引きずる音を立てて、終に扉が開ききる。
すると、隊列を崩さず俊敏に軍人の部隊が入域を開始する。最初に作戦としての指示があったのか、2小隊は隔離壁の中にある部屋に待機している。おそらく扉を開けたまま展開するため、突破を計る十七歳を水際で阻止するためだろう。

隔離区域内に広がり、軍人が一斉に銃を構える。しかし、周りには十七歳の気配はない。
「大佐!あれは!?」
正面に目を向けるとそこには棒に括られた拡声器が一つ。
大佐が目視したことがまるでスイッチだったかのように、其処から音声が流れてきた。

「軍人に告ぐ。我々に戦闘の意志はない。求めることは解放だけだ。我々はウィルス感染などしていない。隔離区域の真実はねじ曲げられ、大義名分は捏造された。
繰り返す。我々に戦闘の意志はない。しかし、あなた方が武力行使に望むのであればこちらも抵抗を辞さない覚悟だ。」
拡声器から発信される言葉は以上の言葉を繰り返す。

「…ふん」

ダダダダッ。

一人の小隊隊長が、そう鼻を鳴らすと携えたマシンガンで拡声器を撃ち、破壊した。
衝撃で、大破しながら押し倒される拡声器。しかし、次の瞬間それが引き金となり拡声器の方向から無数の釘、ガラスの破片など無数の鋭利な破片が軍人の部隊めがけて飛び込んでくる。

「ぐわっ!」

防護服をも突き破るスピードで襲いかかる無数の破片を、最も多く受けた正面を固めていた小隊がうめき声を上げる。

「チッ…。ブービートラップか」
倒れ蠢く小隊を見ながら大佐はそう呟き、無線のスイッチを入れる。
「倒れた者、怪我をした者、防護服が破損した者は一度、ベースキャンプに戻って治療及び、処置をしろ。コヨーテ部隊。倒れたジャッカル部隊の救護に当たれ。他小隊は予定通り侵攻を開始する。
いいか、これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではない。」
大佐の無線が切れたことを皮切りに部隊は展開をはじめる。

*** *** ***


「動き出したゼ。40〜60位の編隊が3つ。最初のトラップで足止め出来たのは20〜30ってとこだ。それぞれ移動している区域を言うからな、該当区域のヤツは気をつけろよ!」
電王からの電話を通した指示が入る。

隔離区域側の十七歳も戦いに向けて動き出した。
隔離区域側の戦闘方法は兵力的に劣るため序盤は徹底したトラップでの攻撃である。トラップは襲撃の事実が解った2ヶ月前から着々と勧められており、隔離区域はトラップの巣窟となっていた。故に、戦闘要員として動いていたのはその実、Realとツーの2名と他数名の幹部や他のチームの元リーダーなど10名だけであった。

実際トラップでの戦闘は軍人側には、驚異であった。
土地勘のない場所でのトラップは緊張感と疑心暗鬼を産む。そしてそれが精神的にストレスになり、心を磨り減らす。トラップでの死傷率は少ないものの、精神疲労は相当なものとなる。

開戦からおよそ1時間。
「ツー。Real。そっちに編隊が向かってる数は40程度だ」
「わかった」
そう、了解するとツーは早々と電王との通信を打ち切り、Realと共に戦闘の準備へと入った。

軍隊とのはじめての接触の時が訪れようとしていた。