月の詩
十七歳隔離区域
第二十八章  「打ち上げ花火」
1

I-2地区侵攻した一団は19人。
侵攻当初は30人のチームだった。
E-1地区からI-1地区への移動中に10人の戦力を失い。そしてたった今、I-2地区に入ったとたんにトラップにかかり、また一人戦線を離脱することになった。
一団の思考は明らかに疲弊していた。

トラップの中を侵攻するということは、神経をすり減らす。トラップにかからぬように細心の注意を配らせ、トラップを発動させてしまったら、今度はそれによって生きる権利を失わぬように必死に我が身を守る。3時間以上もの間そんな状態でいたのだ。
神経は過敏に研ぎすまされ、思考はそれに反比例して摩耗していく。
一団の思考は明らかに疲弊していた。そして、それが最悪の結果をもたらす引き金となる。

そんな、彼らの目の前に、レッドキャップスの三名が両手を上げて正面に現れた時だ。

「わあああああああぁぁぁぁぁっ!!」

一人の軍人が叫び声を上げて機関銃を振り回し乱射。まるで、脊髄反射のような動作で、目の前に現れた「敵」を殲滅しようとしたのだ。

「やめないかっ!!」
一団の指揮官らしき人物があわてて腕を掴み動きを封じる。
発砲を止めたことを確認して、目の前の三人に目を向けた時には、そこに両手を上げていた彼らの姿はなかった。

「いってー…」
横たわりながら左肩を押さえる男…先程の乱射で打たれたレッドキャップスの一人…ナンバー2の男だ。
「いきなり撃ってくるんすね…。映画で見たアメリカ人はホールドアップしてたら危害を加えて来なかったのに。」
その隣で、同じように倒れ込んでいたレッドキャップスの一人がそう呟く。
「…まったくだ。てか、お前大丈夫なのか?」
「奇跡的に。日頃の行いがいいからっすかね?」
「よく言うぜ。ブラザー」
そういってナンバー2は痛みを堪えながら笑う。
「ミヤチャンは?」
無傷の男はそう言って、ナンバー2の男の隣に倒れ込んでいる男を覗き込む。そこには頭を打ち抜かれて目を見開いたまま動かない死体が転がっていた。
「ミヤチャン…。日頃の行い…悪かったからなぁ」
男は目を伏せそう呟いた。
「いや…ミヤはラッキーだったのかもしれないゼ」
「なんでですか?」
「苦しまずに死ねたから。俺たちはこれからもっと辛い思いすることになるだろうからな。」
「まぁ…確かに。…大体、貧乏くじひいてこの三人に選ばれた時点で、俺もラッキーボーイじゃないっすもんね。」
そんな冗談を言いながら、二人はまた笑った。
彼らの思考も軍人同様に異常をきたしていた。彼らの思考は麻痺していたのだ。それは死に対する恐怖の麻痺。
彼らは集団で行動することによって、一種の暗示のように死に対する恐怖を麻痺させていた。属に言う「みんなで死ねば怖くない」というやつだ。
そうして、麻痺した思考で死体の傍らで笑いながら転げ回っていると、軍人達が駆け寄り彼らを包囲した。

2


銃口を突きつけ軍人達が何かを喚いている。
「あいにく、俺等学がないんで、母国語になったその言葉よくわかんないんだけど。誰か日本語喋れる人いないの?」
左肩を押さえながら軍人達を見上げてナンバー2の男がそう呟く。
「…貴様等は投降しに来たのか?」
暫くの「母国語」でのやり取りの後、軍人の一人がそう問いかけた。
「へぇ。流暢な日本語話せる人もいるんじゃん。」
「投降をするのかと聞いている!!」
質問に答えないレッドキャップスに…17歳に軍人は苛立った様子で声を張り上げた。
「…投降したら、俺たちは生きて此処から出られるのか?」
ナンバー2はそう軍人に問いかける。
「…君たちの命は保証する。我々の目的は君たちの保護だ。君たちは感染症の危険が極めて高い。軍の検疫で問題がなければ、身柄の拘束は解除されるだろう。」
「はっ…優等生な解答だね。軍人さん。俺等もうみんなこの隔離区域の「真相」知っちゃってるんだよね。その「検疫」ってのは、軍の医療組織?科学研究所?そこに入ったら問題なく出れることなんてないんでしょ?貴重なモルモットだからさ。」
無傷の男はそう話しながら立ち上がり、そう睨みつける。
銃口は一斉に彼の方向を向く。
部隊長らしき人物に説明をし、解答を得た日本語を話せる軍人が再びこちらを見て、口を開いた。
「なら、ここで躯になるか?…投降の意思がないのなら、貴様等を皆殺しにしてもかまわないとの命令も出ている。」
「…やっぱりそういう事かよ。」
左肩を押さえ、ナンバー2の男も立ち上がる。
「こっちも…最初に声明は出してたよな? 戦う意思はないが、そっちが戦うってんなら、こっちも黙っちゃいないって。」
「…それは、お前達が投降の意思がないということか?」
「へっ…。これなーんだ?」
軍人の問いに答えずに、ナンバー2は懐から何かを取り出し火をつけようとする。
「クッ…!」

ダダッ。

刹那、銃口が火を噴き彼の心臓を見事に狙い撃った。心臓に鉛の玉を打ち込まれたナンバー2は口から吐血し、目を見開いたまま痙攣を繰り返し崩れ落ちるように、その場に倒れ込む。

バシュ。

その、隣で無傷だった男がナンバー2の動作に習うように、懐から同じ物を着火して空に打ち上げた。

「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
それに、怯えた別の軍人が今度は彼にも銃弾を見舞う。
「うろたえるな!ただの打ち上げ花火だ!!」
部隊長が銃撃を制した時にはすでに、17歳の二人の男は血まみれになって横たわっていた。

電王…聴いていたか? こいつらは殺る気満々みたいだぜ? …狼煙も上げた…先に逝くけど…まぁ、後は頑張れよな。

ナンバー2は薄れ行く意識の中で、抜けるように蒼く広がる空に撃ち上げられた花火を見ながら、心でそう呟く。
そして満足そうに口の端をつり上げて笑った。