月の詩
十七歳隔離区域
最悪という選択肢を選ぶ。この選択は次なる最悪への連鎖へと繋がる。
思考能力を摩耗した軍人が引き金を引いた。それにより選択肢から最悪に繋がる道が選ばれる。しかし、この最悪の選択はいつから始まったのだろうか。

軍人が引き金を引いた時から?それとも、軍人の判断力が衰えるきっかけであるトラップを十七歳が仕掛けた時から?もしくは、十七歳を隔離して「観察」をするというプロジェクトを執り行ったイカレタ科学者達の判断が産んだ選択肢なのであろうか?さらに辿れば「G」の存在自体に言及されるのかもしれない。

しかし、そんな過去を遡ることは無意味な推測でしかなく、そして選ばれた選択肢によって物語は確実に進む。
より一層激しい流れとなって、全てを巻き込んで進む。

打ち上げられた花火。それは、破滅への「狼煙」だ。

第二十九章  「連鎖する運命、故に救い難く」

1


レッドキャップスのナンバー2の描いた作戦はこうだ。まず、少人数で軍人達の目的を計る。つまりは「制圧」であるのか「壊滅」であるのかだ。
前者である「制圧」であった場合は残りのレッドキャップスは従来の作戦通り電王、ギーの指示に従えばそれで良い。
しかし、後者で有った場合、先行部隊はなんとかスキをついて合図を出す。もちろんそんなスキも与えずに、敵が先行部隊を殲滅させた場合は問答無用で後者であると判断する。そして、後者であると判断出来る合図、もしくはそれに伴う相手側の挙動があった場合は、残りのレッドキャップスは全力でそれに抵抗、阻止をする。そんな作戦だ。

そして打ち上げられた花火。結論は後者でる。

左右のビルに待機していた残りのレッドキャップス達は一斉に瓶の口に捩じ込まれた可燃性の布や紙に火をつけ、軍隊の一部隊にそれを投下した。
瓶の中味はガソリンや灯油。「隔離区域」にはガソリンスタンドが腐るほど存在し、そのほとんどが貯蔵タンクに燃料が保管されたままになっている。もっとも作りやすい飛び道具。いわゆる「火炎瓶」だ。

モロトフ・カクテルが雨のように一団に降り注ぐ。

「隊長っ!」
瓶が割れると共に辺りに炎が燃え広がる。そんな光景に、一人の軍人が悲鳴を帯びた声でそう叫ぶ。
「狼狽えるなっ! 数は大したことはない! 投げてきたところを狙い撃てっ!!」
軍隊長は冷静を装い、隊員にそう怒鳴りつけ統率を取る。
軍隊の数は19。レッドキャップスは先行部隊に3人を割き、その数は10を割っていた。数の上でも武力においても、レッドキャップスが遥かに劣る状況。
隊長の指示により、コチラに投げ込もうとする人間が腕ないし、顔を出すのを逃さずに狙い打つ。
飛んでくる場所さえわかれば照準を合わせることは容易かった。

一人、また一人と撃たれ倒れていく。
「畜生っっっっっ!!」
レッドキャップスの最後の一人がそう叫んで、火炎瓶を振り翳す。
しかし、無情にもその火炎瓶は軍人達に届くことはなく、彼の額には風穴が空いた。
彼がそのまま、倒れ込んで暫くして、彼の居たビルの窓から炎が昇る。おそらく沢山の火炎瓶が用意されていたのだろう。
着火されたまま投げ込まれなかった瓶がそのまま炎上しだしたのだ。気付けば反対側のビルも燃え上がっていた。

「…やられたな…。」

燃え上がるビルを見上げて、軍隊の隊長がそう呟いた。彼自身も平静を装っていただけだった事を改めて実感する。
軍人側の被害状況は6人の重傷者と3人の軽傷者。善戦したといったところだ。しかし、退路を確保することを怠ったため、周りは物の見事に火の海に囲まれている。
燃え盛る火の勢いが収まるまで、身動きを取ることは出来ないだろう。

バシュッ。

不意に、レッドキャップスのナンバー2が打ち上げられなかった花火が引火して軍人目がけて火の粉を吹いた。

「ク…。」

ガソリンのついた防護服に火が引火しないように慌てて火の粉を振り払う。

燃え上がる炎の中、目を見開いたまま動かないナンバー2が「ざまぁみろ。」そう言っているように思えた。

2

「…レッドキャップスが全滅した。」
無線越しに電王の声が力なく響く。それに、対して誰かが返答をくれることは無かった。Realならあるいは何か言葉をかけてくれたかもしれないが、彼らは今地下を移動しているため連絡が取れない状況だ。

「…ギー。映像の編集は済んだか?」
誰からも返答がないことを了解し、電王はギーへと繋がるホットラインへ接続を切り替える。映像とはレッドキャップスの3人が銃殺された映像だ。それを編集し外に向けて発信する。彼らの行動を無駄にしないための手段だ。不意に電王の脳裏にナンバー2の言葉が過る。

「しっかり使ってくれよ。雑巾の命。」

ーーーしっかり使わせてもらうさ。絶対に無駄にはしない。

心の中でそう呟いた。

「編集は済んでもう、外に向かって流してるよ。」
ギーからそう返答が来る。
「…でも…本当にこれで誰かが動いてくれるのかな…」
続けざまに、疑問とも独り言とも取れるような言葉を漏らす。
「さぁな。」
ギーの呟きに無神経な電王の返答。しばしの沈黙が支配する。さすがにばつが悪くなって電王はギーに胸の内を明かすことにする。
「それでも、俺達はこれに掛けるしかない。」
今度は少しだけ声を張って、ギーを元気づけるように。
実際のとこと、それは自分自身への暗示でもあった。きっとなんとかなる…そんな根拠のない呪詛。

「…だねっ。」
ギーもそう、少しだけ声を張って頷く。

選択は連鎖する。その一つの選択がまるで次の選択肢の答えを予め決定してしまうかのように。
レッドキャップス達の選んだ選択はどこに繋がるのだろうか。これも、最悪の選択肢の一つに過ぎないのだろうか。その結末を内に秘め物語は進む。より一層激しい流れとなって、全てを巻き込んで物語は加速する。