月の詩
十七歳隔離区域
第三章  「羊飼いの聖女」
1

「服はその辺にあるから適当なやつ着て。さっきの話の続きになるけど…」

「シリアルナンバーだろ?この服のシリアルから個人判別をされるおそれがある。」

「キミ、頭いいね。ココで行きてくセンスあるかもよ。
でも、出てくときにはそれ着てかなきゃ通してもらえないから、無くさないでよ。」

「軍隊もこれで個体の識別をしてるってことか。」

「…いいセンスしてるよ…。りっちゃんも喜ぶだろうな。久々の当たりかも。」

そういってギーはまた子供のように笑った。

「あら。ギー戻ってたの?今回の新人くんは彼だけ?」

後ろから不意に声が響く。

振り向くと、そこには一人の女性がいた。大きな麻袋を引きずりながら彼女は彼の方を見やる。

「最近、レッドキャップスが幅利かせてるからね〜。なかなかルーキーの確保難しいんだよ。今回なんて下手すれば彼だけかもよ?レッドキャップスから逃げ出せたの。」
ギーは両手を振り上げ降参のポーズを取ってそう愚痴を溢した。

「ふーん…。じゃあ期待のルーキーになってくれるかな?」
そんな、確立の少ない生存競争を、最初の難関をくぐり抜けてきた彼を彼女はそう言いながら、まるで品定めをするかのように見る。

「それよか、それが今回の収穫?少なくね?」

「ツーがもう一袋分もってくるわよ。大人数だと狙われやすいからこのくらいが限界かもね。」

「仕方ないか…まぁ、二袋あれば2週間は食いつなげるっしょ?」

麻袋の中は「食料」であることにその時やっと彼は気づいた。これがこのチームの当面の生命線となるのだろう。

「ツーは食料庫と他の仲間のとこにいってるから。今回の集合は夜の9時よ。…キミ、早速だけどちょっと付き合ってもらえる?」

そういうと、彼女は彼に道を則す。

「ギー。」
珍しく彼が話しかける。

「彼女がりっちゃん?」

「…よくわかったね。」
さすがにギーもこれには驚いた様子だった。チーム「ノーネーム」のリーダーだからりっちゃんか。
そう、彼は心の中で思考を咀嚼し整理を済ませる。

「フフ…。久々の当たりかもね。」

その様子を見ながら、 リーダーは満足そうに微笑みを浮かべていた。

2

リーダーに連れられ、彼とギーは地下水路からさらに地下へと続く道を進む。

「…この道…整備されてないな…掘ったのか?」

「むかしこの辺をテリトリーにしてた「土竜」って呼ばれてたチームが作った穴みたいよ。」

彼の問いにリーダーが答える。

「…で、その土竜族は?」

「集団自殺したわ。」

「…そっ。」

彼は、そうそっけなく応えながら頭の中で隔離区域を整理しだした…。
確かにここは楽園だったのだろう…。そう、例えば物資が残っていたころは…。しかし物資がなくなり、空輸に頼るようになる。
するとどうだろう…制御の効かない十七歳は取り合い、もみ合いそして抗争になる…。そして誰かが誰かを殺した。
楽園が崩壊したのはおそらくそんなささいなことがきっかけだったのだろう。
そして、力が支配し、力を得るために群れをなす…。まるで動物だ。理性の欠片さえない…。
耐えられないやつは自分からリタイアするしかないのだ…。ここの一年はきっと、とてつもなく長いのだろう…。
思考の整理を終えるころ、大きな地下通路に出た。

「メトロ…?まさか生きてるのか?」
彼が少しだけ驚いたように声を上げた。そこは東京の地下。蜘蛛の巣の様に張り巡らされたメトロの成れの果てだ。

「まさか…。先に進んでも隔離区域の境界線はコンクリートでふさがれてるわよ…。試しに掘ってみる?うまくいけば一年いなくても出れるかもよ?」

リーダーが彼をからかうように言った。

「やったところで絶望するだけなんだろ?でなきゃとっくに誰かがやっている。」

実際その通りであった。

土竜が掘り進めた境界線の壁は途中で分厚い鉄板に当たる。土竜達はそれでもあきらめず掘り進めようとしたが、隔離区域の乏しい物資では限界がありやがて発狂した。

「ふふ…。キミ本当に当たりかもね…」
リーダーが満足そうに笑った。

「おっ!見えてきたよ。」
ギーが指を差した先は地下鉄の配電室に繋がる扉。

「この先に、キミに会わせたい人がいるの…。」
そう言ってリーダーは扉を開けた。