月の詩
十七歳隔離区域
第五章  「Real」
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ショートボブの髪を揺らして、片手で起用にタバコを一本ケースから取り出す。年期の入ったジッポ。

煙を燻らせながら彼女は微笑みを浮かべた。

配電室の教会の帰り道。土竜の作った地下道の三人。暗がりに彼女のジッポが灯す明かりが揺らめく。

「なんか…りっちゃん機嫌いいね。」
彼がのんびりした口調でそうつぶやく。
「嬉しいんだよ!キミ大当たりって感じだしっ。」
ギーが笑顔でそう答えた。
「りっちゃんはまず、ルーキーが来るとあそこに案内するんだ。この隔離区域から逃げるのに宗教は持って来いだからね。
それでもあそこに残らない人間をチームに招き入れるんだよ。」
「んじゃ俺は合格?」
「合格どころか…。」
その先をギーは言わなかったが、満足そうな笑顔がすべてを語っていた。

「ねぇ。キミ。」
先頭を歩いていたリーダーが不意に振り向きそう声をかける。
「ここでの呼び名…なんなの?」
「んー。特に決めてないから。りっちゃんが好きなように呼んでくれればいいよ。ゲス野郎とか短小とか…。あっ、やっぱり短小はちょっと嫌かな?」
だらだらと歩きながら、自虐的な冗談をポーカーフェイスでつぶやく彼。

「私が名付けていいの?」
クスクスと彼の自嘲的なジョークに笑いながらリーダーはそう質問をなげかける。
「どーぞ。どーぞ。」
抑揚のない返答。彼自体は呼び名とか固有名詞といった類いに興味がないのか、見るからに適当にリーダーの質問対して許可の返答をする。
しばらくタバコを弄び、目を泳がせながら思惑するリーダー。そして流し目で彼の方を見やり微笑んだ。

「Real。
…ここには真実なんて無かったから。でもキミは今日私達にひとつ真実をくれた。だから「Real」。」

リーダーはそう彼の名前を名付けると、指で挟んだ煙草の先を見ながら目を細める。煙草の先から一本の細い線のように立ち昇る煙は、上に昇れば昇るほど、やがて肌も認識しないような微弱な風に吹かれ形を崩しその姿を変えて行く。それは何もかもが平穏であった外の暮らしから、渾沌と無秩序でしかないこの隔離区域に移された自分達の境遇を移し出しているようにも思えた。

「Real。」

リーダーは煙草の先から彼へと目を移しもう一度そう呟く。
ギーが吹き出しそうになる笑いを堪える。喉の奥から出そうになる「ダサっ」の言葉を飲み込んでいた。
彼は照れくさそうに頭を掻きながらリーダーに歩み寄る。

「一本貰っていい?」
リーダーからタバコを貰い、火を灯して貰う。ゆっくりと燻らせながら一歩二歩と先を歩み始めた。

「お気に召さなかったかしら?」
腰に手を当てたご立腹のポーズ。リーダーの不機嫌そうな質問。
隣のギーは、だって「Real」はダサいっしょ?と咽の置くから飛び出しそうになるのを必死でこらえながら、たった今Realと名付けられた彼が返答に困っているというこの状態を楽しんでいた。

「…いや。」

タバコをもう一度吸い込み…そして吐き出す。
「いいんじゃない?Real。」

彼はそう返答をすると、ゆっくりとこちらを振り向き笑った。