月の詩
十七歳隔離区域
第七章  「暗がりの告白」
1

カシャン… パチン。

カシャン… パチン。

ジッポを開閉する音。
Realの私室として空け渡された一室。
光は無い。

カシャン… パチン。

カシャン…

「………。」

不意に手を止める。あたりは沈黙が支配する。
Realは部屋の片隅で壁にもたれ掛かるように座り、ジッポを弄ぶ動きを止めた。
ここに来てから一日が過ぎた。
とても長い一日だった気がする…。

「ここから出て行ってくれ…。君は危険すぎる!」
牧師の怯えた瞳…。

「…俺は貴様を危険分子だと判断する!」
ツーの疑惑の眼差し…。

「それでは、〈レッドキャップス〉による新人歓迎会を執り行う!」
レッドキャップスのリーダーのイカレタ眼光。

「………。」
ゆっくりともう一度、この「現実」を振り返るReal。

「こんばんわ。起きてる?」
不意に話しかける女性の声…リーダーだ。
「こんな夜更けに夜這い?」
お互いシルエットでしか確認できないような暗がり。Realは冗談のようにそう返答する。
「まさか…。ここでSEXなんてしたら声聞かれちゃうもの。扉もないし。喘いだら筒抜けよ。」
「…なんだ。期待してたのに…残念だな。」
「残念な時、人はもっと残念そうに言うものよ。Real。…お部屋に招いてもらっていいかしら?」
「…どーぞ。」

そんな、会話を交わしながらリーダーは彼の部屋に入る。
「…タバコ…吸わないの?」
部屋の中央にもうけられたソファーに腰掛けながらリーダーはRealにそう問う。

「ギーから貰ったこのライター。ガス…入ってないんだよね。」

カシャン… ジュボッ

リーダーが自分のジッポに火を灯す。
「こっちに来て吸ったら?」

炎に照らされる二人。
二人の顔が炎でかすかに照らされ…揺らぐ。

「…んじゃ、お言葉に甘えて…。」
Realはゆっくりと腰を上げリーダーの隣に座り、掲げられた炎でタバコを燻らせた。

「…ツーともめたんですってね。」
「…まぁ、一方的にイチャモンつけられたってカンジ?」
「此処は秩序なんて無いケモノの巣窟だから…。ツーは秩序を生み出して此処にルールを確立させようとしているのよ…。」
「そいつはご健勝なことで…。」
「ツーはよくやってくれているわ…。私も彼には期待してる…。でもツーや他の連中がどう思っているのかは、わからないけど、私とギーはあなたもあてにしてるから。」
「…人がね…人らしくなるのって22を過ぎたあたりから…らしいよ?」

Realの遠回しな「辞退」の声明。それを読み取りリーダーは微笑する。

「あなたらしいわね…。楽しみにしているわ。あなたが此処にどんな答えを出すのか…。」
リーダーの台詞にRealが少しだけ言葉を詰まらせた。

2

数秒の沈黙が辺りを支配する。
タバコをくゆらす二人。
ぼんやりとしたシルエットでしか相手を確認できないような空間。
吸い終えた煙草を揉み消してリーダーが話しかけた。

「…なんで私がこのチームのリーダーに成れたと思う?」
リーダーのRealを試すような問い。

Realは話題を変えてもらったこのチャンスを逃がさないようにゆっくりと思考と同時進行で言葉を紡ぐ。

「…まずこのチームの名前…だね。【ノーネーム】これはりっちゃんがつけた名前じゃないでしょ?大方、ある程度人数が揃った時に外部の人間が名付けた名前じゃないかな?
チームとしての総称なんて興味のなかったりっちゃんはきっと「名前なんてどうだっていい。」そう思ってつけなかった。
他の人間はりっちゃんのチームを呼ぶ為のニーズが出て来たんだけど呼ぶ名を持たない。だから【ノーネーム】。
そこから推測するに、このチームは何かのきっかけで形成されたって言うよりは、何となく気付いたら人が集まってたんじゃないかな?…気付いたらりっちゃんを慕う人間が増えていた。りっちゃんが慕われているなら自然と神輿として担ぎ上げられるのはりっちゃんだ。そんな感じなんじゃないの?」
「…チーム名だけでよくそこまで、推理できるわね。だいだいそんな感じよ。…でも、じゃあ何故私が担がれたのかな?」
「…人柄でしょ?」
Realはリーダーを覗き込むようにそう答える。

「フフ…。残念ながらそれは不正解。…正解はこれを持っていたからよ。」
リーダーはおもむろに腰からあるものを取り出した…。拳銃だ。

「ここでの秩序が崩壊しそうになった時、みんなはどうしたと思う?…まず最初はそのまま放置されているスーパーの食料の取り合い。そしてレジ金の取り合い。生きる術の確保が起こったの。そこから乱闘が起こって【力】を持つものが支配する図式が出来上がって行った。
私が最初に行ったのは都警の物色。これがないかって探したの。自分の身を守るためだけにね。交番も探したわ…なんとか見つかったのはこれともう一つの計二丁だけ。」

「じゃぁもう一丁は、ツーさんが持ってんの?」

「…いいえ。もう一つはレッドキャップスのヘッドが持っているの…。私たちは最初、行動を共にしていたのよ。意外でしょ?」

意外と言えば意外だった。それを聞いて「いつから?」とか「どうして別れてグループを持つことになった?」という疑問が湧いたがそれが直接リーダーの「素性」に繋がる質問になるので、Realは尋ねることが出来ずにいた。
再び、沈黙が辺りを支配する。

「…私ね。」

リーダーがまた、沈黙を破る。

「明日が解放日なんだ…。」

突然の告白。

「何言ってんの!?…そんなことはココで言ったら駄目っしょ?」
さすがのRealも音量が少し上がる程、取り乱した。
「…チームのことはツーに頼んであるわ。Realとは馬が合わないだろうけど、存続するのか解散するのか他のグループに吸収されるのかは彼次第。それとね、Realに頼みたいことがあるの。」
「明日の護衛?」
「…そう。」
「これを知ってるのは?」
「あなたとツーだけ。ギーや他のみんなには伝えていないの。」
「ってことはツーにも護衛を?」
「えぇ。うちのチームで戦闘要因っていったら彼くらいだもの。」
「俺も非戦闘要因よ?どっちかって言ったら。」

ゴト。

リーダーが拳銃をテーブルの上に置く。
「これで、Realも戦闘要因でしょ?あと、Realのブレインにも期待しているわ。このタイミングでRealに出会えた私はついてる。明日の正午…私がここから解放される可能性が少しでも上がるように助けて。」

そう言うとリーダーは、Realの言葉を待たず席を立った。

「りっちゃん。」

不意にRealが呼び止める。

「りっちゃんはここを出て大丈夫な人なの?」

それは、誰も殺めていないのか?という意味の問い。

「…もちろん。私の手は綺麗なままよ。」

そう言い残して部屋を出るリーダー。それを見送りながら二本目のタバコに手を伸ばす。

「あ…火が無いんだった。」

手持ち無沙汰となったRealはそう独り呟きながら拳銃を弄んぶ。