1
夏休み。
土曜日の午後。
教室には教員の女性と補習を受ける生徒。
教員の女性は黒板に数式を並べて、二次関数の解き方を熱弁する。
それを肩ひじをつきながら微笑ましく見守る生徒。
「…ちょっと。真剣に聴いてる?」
「…ん?」
女教師の問いに生徒はそっけなくそう答えた。
「もう。ちゃんと聴かないと単位あげないんだからね。卒業できなくなっちゃうよ?いいの?」
「う〜ん…。それは嫌かな。」
何となく気の抜けた生徒の返事。
その解答に呆れた感じのため息をつく女教師。
「私…高校留年するような男とはお付き合いしませんからね。」
「…ごめんね。」
つまりは二人はそういう間柄。肩ひじをついたままありきたりの謝罪を述べる彼に彼女はもう一度ため息をつきながら教台から降りて歩み寄る。
「…ごめんねって言ったって何にも変わらないのよ?」
両手を腰に当ててご立腹のポーズ。それを見上げて彼は微笑みながらもう一度こう呟く。
「うん…。でも、ごめんね。」
彼にとっては黒板の二次関数なんて意味をなさない記号でしかなくて、ここに彼女がいることが全てだった。
彼女の怒っている姿すら愛おしく笑みがこぼれる。
「…ごめんね。」
もう一度、微笑みながら謝罪する彼。
「もう…。」
そう言うと彼女は彼の襟元を引き寄せ唇を重ねた。
「…ねぇ…続き…教えてよ。」
「…バカ。」
夏休み。
土曜日の午後。
男と女。
いつかの誰かの幸せな過去。
窓に止まった蝉が二人の声を掻き消した。
|